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2004年01月26日(月) 00時00分

マイケル裁判 人種問題の悪夢 黒人イスラム教団、主要な役割? 東京新聞

 少年に対する性的虐待の罪に問われている米ポップス界の黒人スーパースター、マイケル・ジャクソン被告(45)の裁判で、人種問題が蒸し返される可能性が出てきた。黒人イスラム教団体が同被告の支援に乗り出したためだ。一九九五年のO・J・シンプソン裁判では黒人と白人で意見が対立、人種差別という米国の“古傷”を呼び起こすことになった。悪夢は再現されるのか−。 (米カリフォルニア州サンタマリアで、寺本政司)

 ■『虐待』から『差別』へ

 「1000%無罪」「われわれがついている」−。

 ファンが掲げるプラカードやリボンが沿道に並ぶ。黄色い声援が飛び交い、被告のヒット曲が大音量で流れる。その中でひときわ異彩を放ったのがスーツ姿の黒人集団だ。一列に並び、マイケル被告の車が到着すると、サッとその周囲を取り囲んだ。黒のサングラスとスーツ姿の同被告は、黒い日傘を持ったメンバーらに付き添われ、法廷内に消えていった。

 ■黒人の独立国家建設訴える団体

 ロサンゼルスから車で約二時間。ハイウエー脇にのどかなブドウ畑が広がる。ワインの産地で知られる人口約八万五千人の田園地帯が、全米の注目を集めたのは今月十六日。サンタマリア地裁でマイケル被告の罪状認否があったのだ。昨年十一月の逮捕以来、被告が公の場に姿を現すのは初めてで、地裁前には千人を超えるファンや報道陣が世界中から殺到した。

 そこに現れたこの異様な集団は、黒人の独立国家建設を掲げるイスラム教団体「ネーション・オブ・イスラム(NOI)」。マイケル被告側は、NOI起用について「被告の身辺警護を強化するためだ」と主張する。

 しかし、裁判直前にハリウッドのホテルで開かれた被告の司法戦略会議では、メンバーが「ドリーム・チーム」と呼ばれる敏腕弁護士や音楽仲間らに交じって出席した。AP通信によると、創設者ルイス・ファラカーン氏の娘婿で最高幹部のレオナルド・ムハンマド氏が、席の中央に陣取っていたという。

 米ニューヨーク・タイムズ紙は昨年末、NOIが広報のほか、裁判費用など金銭問題に関与する可能性があると報道。米CBSの看板番組「60ミニッツ」の単独インタビュー放映や各地で開かれている無罪要求の集会なども、NOIが中心的な役割を果たしているといわれる。

 マイケル被告の弁護士マーク・ゲラゴス氏は「彼らが(裁判を)取り仕切っているわけではない」と強調する。NOI側も「(支援は)公式なものではなく、個人的な関係からだ。もちろん彼が喜んでくれると思っているが」と話す。

 ■教団に不快感?広報マン辞める

 しかし、マイケル被告の広報担当者スチュアート・ベッカーマン氏が昨年末、突然辞任した。原因として、NOIが被告のビジネスや私生活に深く関与し、嫌気がさしたためとの見方も浮上している。

NOIはどんな団体なのか−。

 米メディアなどによると、大恐慌最中の一九三〇年、デトロイトで生まれたアフリカ系米国人のイスラム運動組織という。白人社会への同化を拒否し、黒人の経済的自立や民族的優越を目指す。第二次大戦後、黒人指導者「マルコムX」の入信や公民権運動の高まりで組織は一時拡大したが、路線対立から分裂。現在のNOIは過激派の流れをくむ。

 「マイケルは再び黒人に戻るのか」(南アフリカの新聞「ガーディアン」)「マイケルは人種カードを切るのか」(米NBCテレビ)−。NOIとのつながりが明らかになると、米メディアは裁判の進展と人種問題に注目し始めた。

 人種問題に発展する予兆はある。マイケル被告の兄ジャーメイン氏は「現代のリンチそのものだ」と、差別を連想させる言葉で怒りをぶちまけた。

 黒人運動指導者のジャクソン牧師は、ビートルズの「レット・イット・ビー」の制作で知られる白人の音楽プロデューサー、フィル・スペクター被告が殺人事件にも関わらず、マイケル被告の保釈金(三百万ドル=約三億二千万円)の三分の一で保釈されたと指摘。同じ有名人でも人種によって差があると不満を述べた。

 ■アルバム不振で「人種」言い訳に

 マイケル被告自身も一昨年、「レコード業界は黒人アーティストに対して人種差別している」と所属するソニー・ミュージックなどを批判した。アルバムの売れ行き低迷のはけ口として、人種問題を持ち出した“前科”がある。

 ロサンゼルス在住の弁護士は「黒人スターの裁判で、人種問題は常につきまとう」と言う。一例として、白人の元妻殺害で起訴されたアメリカン・フットボールの元黒人選手O・J・シンプソン裁判を挙げる。

 被告側弁護団が、担当刑事の人種差別疑惑を暴露したのを機に、最大の争点は人種問題にすり替わった。裁判の陪審員はDNA鑑定などの証拠がそろっていたにも関わらず、無罪を評決。黒人が歓声を上げる一方、白人が肩を落とす姿が世界にテレビ放映され、米社会が抱える人種問題の根深さをあらためて示した。

 ■シンプソン裁判「再現にならず」

 サンタマリアで、地元紙のスティーブ・モス記者は、マイケル裁判が人種問題に発展する可能性について「それだけはごめんだ。米国が再び分断されてしまう」と顔を引きつらせた。

 O・J裁判の場合、その前に黒人ドライバーを殴打したロサンゼルスの白人警官が裁判で無罪になった「ロドニー・キング事件」が発生。黒人の怒りが頂点に達していた背景があり、マイケル裁判と事情は違うとの見方が根強い。マイケル被告のファンが白人層に多いことも、O・J裁判の再現にならないとの見方を補強する材料になっている。

 ■地裁前『裁判は人権問題』

 ただ、サンタマリア地裁前に集まった人垣には、黒人の地位向上を訴えるスローガンやビラ、黒人解放指導者マーチン・ルーサー・キング牧師の肖像画なども目立つ。アリと名乗る黒人男性(40)は「裁判は人権問題だ。黒人は不当に扱われている」と話した。

 焦点になりそうなのが十二人の陪審員選びだ。高額所得者が多いサンタマリアで、黒人の人口比率は約2%。白人が陪審員の多数を占めれば、黒人層の不満が爆発する恐れもある。

 ただ、皮膚の脱色など度重なる整形を受けたと言われるマイケル被告はほとんど白人に見える。自身のヒット曲「ブラック・オア・ホワイト」でもこう歌っている。

 「♪君が黒人であろうと、白人であろうと、どうでもいいことさ」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040126/mng_____tokuho__000.shtml