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2004年01月25日(日) 12時34分

社説 便利な電子社会へ万全の安全対策を日経新聞

 「e—Japan戦略」に基づく電子政府構想が本格始動する。19日から電子納付システムがスタートし、29日には公的個人認証サービスが始まる。これで2月から国税の電子申告・納税、3月からはパスポートの電子申請が可能になる。行政手続きの電子化は国際的な流れだが、成功させるには万全な安全対策を急ぐ必要がある。

 インターネットで行政手続きができるようにするには、本人確認やオンライン決済の手段が必要で、前者を公的個人認証サービス、後者を電子納付システムが担う。

24時間支払い可能に

 公的個人認証サービスは住民基本台帳ネットワークの情報をもとに政府が電子証明書を発行するもので、それを住民基本台帳カードのICチップに保存し、電子手続きの際の署名やなつ印の代わりに使用する。

 電子納付システムは「マルチペイメントネットワーク」と呼ばれる金融機関の決済網を使い、パソコンや携帯電話、現金自動預け払い機(ATM)から、24時間いつでも税金や手数料を払えるようにした。

 国や地方公共団体への申請や届け出は全部で約2万1000種類あるが、こうした仕組みを使うと窓口まで直接出向く必要がなくなる。

 電子決済では他人になり代わる「なりすまし」や情報を故意に変えてしまう「改ざん」、それに情報を送ったこと自体を否認する「しらばくれ」の問題があるが、電子証明書によりそうした問題を解決できる。

 国税の申告・納税は年間で約2000万件、社会保険関係手続きは約4900万件、パスポート申請は約580万件あり、行政手続きの重荷になっているが、すべて電子化されれば大幅な効率化が期待できる。

 問題は電子政府の仕組みはできたものの利用面ではまだ十分な態勢が整っていないことだ。公的個人認証の受け皿となる住基カードは今年3月までに300万枚の発行を予定していたが、84万枚の見込みにとどまっている。住基カードの読み取り装置も様々な製品規格が入り乱れ、今もって明確な値段や購入場所さえも明らかにされていない。

 国と地方公共団体との間にも対応の差がある。国税の電子申告・納税は東海4県から開始し、6月には全国で実施されるが、地方税は来年1月に6府県で始まり、全国に広がるのは2006年1月以降。新車登録や自動車税などの自動車関連手続きも来年以降にずれ込む。電子納付システムは約1200の金融機関が提供するが、漁業組合など約800の金融機関はまだ対応ができていない。

 さらに大きな課題は安全対策のための準備である。住基ネットへの侵入実験を試みた長野県は安全性を理由に公的個人認証サービスの提供をしばらく留保する見通しだ。住基ネットと公的個人認証サービスは別々のシステムだが、役所の情報インフラに不備があれば個人情報の漏えいにつながる恐れがあるからだ。

 9・11テロを経験した米政府は昨年1月、各省庁の安全責任者を集めた国土安全保障省を新設、6月には情報システムへの侵入などを監視する国家サイバーセキュリティー局を同省に設けた。現実のテロ以外に政府の情報システムを狙ったサイバーテロが頻発しているためだ。

 一方、日本では効率性の追求や競争力強化のための電子政府構想が叫ばれているが、政府の情報セキュリティー対策は欧米に比べ、ぜい弱性が否めない。米国のサイバーセキュリティー局に相当する内閣官房の情報セキュリティ対策推進室の予算は米国の60億円に対し、3億6000万円。常勤職員の数も米国の約60人に対し、9人しかいない。

個人情報は自分で守る

 もっとも安全対策の予算や人員は必ずしも多ければいいわけではない。総務省は電波法の改正により、無線LAN(構内情報通信網)でやり取りされる情報の不正傍受に罰則を科す方針だが、合わせて不正アクセス禁止法の量刑を重くし、予防効果を高めることも一案だろう。

 もう一つ重要なことはプライバシーの保護である。行政手続きの電子化は情報漏えいが心配される半面、電子カルテなどは責任者しか情報にアクセスできなくなる。来年春に個人情報保護法が施行されると、政府も民間企業も個人情報の目的外使用や第三者譲渡は禁じられる。医療、金融、電気通信の3分野は個別保護法の制定も急がれるが、個人情報を扱う職員や従業員には情報管理教育を徹底することが必要だ。

 だが最も大事なことはまず国民一人ひとりがセキュリティー意識を持ち、自分の情報は自分で守る姿勢を持つことである。電子社会の進展は利便性が高まる代わりに個人情報が社会に流れることを意味する。自分の情報が正しく扱われているか常に政府や企業へ情報開示を求め、確認していく姿勢が求められている。

http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/index20040125MS3M2500H25012004.html