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2004年01月23日(金) 00時00分

銀行の窓口販売緩和、急ピッチ 東京新聞

 金融庁が銀行の窓口で販売できる金融商品の範囲を広げるため、急ピッチで規制緩和を推し進めている。今年中には銀行窓口で株式売買が可能になり、二〇〇五年にはあらゆる保険商品も購入できるようにする方針だ。銀行、保険、証券の垣根を一気に崩しかねない動きに各業界は動揺。その一方で肝心の消費者保護策は置き去りにされかねない状況だ。 (金融問題取材班)

●悲 鳴

 「保険と証券を犠牲にしてまで銀行を救うつもりか」。今月中旬、大手生保首脳の一人は「銀行窓販」の拡大が既定路線となっていることに憤りを隠さなかった。

 昨年末、金融審議会(首相の諮問機関)は株式などを扱える証券仲介業を銀行に解禁するよう報告。金融庁は今通常国会に関連法案を提出する。これに続き、今月十六日からは生損保の全商品も解禁する方向での議論がスタートした。金融庁の素早い動きの背景と見られるのが、〇五年四月に迫っているペイオフ(預金の保護を一千万円とその利息までとする措置)完全解禁。預金者の銀行選別は厳しくなるが、本業の貸し出し減少が続き、収益低迷に悩む銀行にとって、「窓販拡大」は手数料収入を手っ取り早く稼ぐ有力な手段となる。

 大手銀行で窓販実績トップは三井住友銀行。昨年九月末までの投資信託販売額は約一・八兆円、個人年金保険は二千五百十億円に上るが、大手以上に収益環境が厳しい地域金融機関にとっては、窓販の重要性はより大きい。ある大手生保は「うちの年金保険を最も熱心に販売してくれたのは一時国有化された足利銀行」と打ち明ける。

 一方、保険・証券両業界が危機感を深めるのは、銀行という強力な販路によって自社の営業網が大きな打撃を受けかねないためだ。とりわけ生保の場合は約二十八万人の営業職員のうち大手四社だけで十九万三千人も抱える。保有契約高の減少が続く中で「深刻な雇用問題に発展する」との懸念は強い。

 ただ証券も保険も業界は一枚岩ではない。ネット証券や外資系生保などの新興勢力にとっては、銀行窓販の拡大は既存大手を追撃する絶好の機会と映るためだ。松井証券の松井道夫社長は「個人投資家のすそ野が広がるので銀行の証券仲介業参入は歓迎」と話す。窓販拡大による競争激化は、銀行を軸とした金融系列化や、小が大をのみ込む再編などを誘発し、金融地図を一変させる可能性も秘めている。

●死 角

 業界の騒ぎをよそに竹中平蔵金融相は「より自由な競争環境の中で消費者の利便を高めていくというのが基本的な方向」と強調。高木祥吉金融庁長官も「窓口販売の問題は業態の問題ととらえるべきではない」とクギを刺し「消費者の保護や利便性、金融保険市場の健全な発展の立場で検討されるもの」としている。

 だが解禁後、消費者の利益が本当に守られるのかは不透明だ。既に解禁されている商品をめぐっては、銀行が融資先である中小企業などに対し優越的な立場から「圧力販売」を行っている、との指摘もある。またバブル期には銀行と生保が組んで個人に借金させてまで変額保険を売りまくり、後に大きな社会問題となった“前科”もある。

 金融庁は予防策を政省令で設けるとしているが、具体的な検討は解禁の是非の決定後になる見通しだ。生活経済ジャーナリストの高橋伸子さんは「消費者保護の仕組みを整備してから解禁を議論すべきだ。順序が逆」と指摘する。

 新手の金融商品から消費者を守る「金融サービス法」の必要性を消費者団体らが訴えて久しいが、省庁や業界の壁に阻まれ実現していない。

 今回の窓口販売全面解禁が単なる業態の壁を低くするだけの小手先の改革に終われば、消費者の信用は得られず、結果的にペイオフ完全解禁への道のりが遠のくことになる。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20040123/mng_____kakushin000.shtml