悪のニュース記事

悪のニュース記事では、消費者問題、宗教問題、ネット事件に関する記事を収集しています。関連するニュースを見つけた方は、登録してください。

また、記事に対するコメントや追加情報を投稿することが出来ます。

記事登録
2004年01月14日(水) 01時31分

1月14日付・編集手帳読売新聞

 トルストイの「戦争と平和」に、登場人物のひとり、アンナ・パーヴロヴナの体調に触れたくだりがある。「彼女は…インフルエンザにかかっていたのである」◆トルストイの語るところでは、「インフルエンザというのは当時の新しい言葉で、少数の人にしか用いられていなかった」(米川正夫訳、岩波文庫)。物語に描かれた十九世紀の初めは新語であったらしい◆それから二百年、インフルエンザの名はすっかり耳になじんでいる。菌の遺伝子配列も解読されている。人間にとって手ごわい健康の敵であることだけは、当時と変わらない◆一九一八年のスペイン風邪。一九五七年のアジア風邪。一九六八年の香港風邪。小説の題名ではないが、忘れたころに新型を繰り出しては平和の眠りを覚まし、人間に戦争を仕掛けてきた過去がある◆山口県阿東町の養鶏場で、鳥インフルエンザの発生が確認された。毒性が強く、感染した鳥の致死率は高いが、肉や卵を食べて人に感染した報告例はない。消費者の不安を鎮め、養鶏業者を風評被害から守るためにも、一日も早い感染源の特定が望まれる◆BSE(牛海綿状脳症=狂牛病)の牛、新型肺炎のハクビシン、そしてインフルエンザの鶏である。家畜や野生動物の体内に宿った厄介な敵を相手に、戦争と平和のせめぎ合いがつづく。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20040113ig15.htm