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2004年01月05日(月) 00時00分

クローン牛無策の日本 東京新聞

 牛海綿状脳症(BSE)感染牛の発覚で米国産牛の安全性が問われている。その米国で、食肉としてじわじわと市場を拡大させているのがクローン牛だ。米国の食肉解禁を受け、日本の国内にも多くのクローン牛が出回っている。農水省は「安全性に問題なし」と断じるが、食肉市場にクローン牛が出回っているのは日米とカナダだけだ。「食の安全」における「米追従」の危険度は−。  (長久保宏美、早川由紀美)

■BSE発覚で信頼性揺れる

 「通常の食品と同様、安全性に問題はない」。昨年秋、米食品医薬品局(FDA)が体細胞クローン牛製品について出した結論だ。これにより今年前半にも、食肉やミルクなどの販売承認が出される見込みだ。

 ただ、クローン牛には、この体細胞クローンのほか受精卵クローンもあり、こちらは既に米国や日本の市場で食肉として一般に販売されている。米国に次ぎ日本で最初にクローン牛が出荷されたのは一九九三年の三月だった。この時点では、クローン牛の流通は消費者には知らされておらず、農水省がこの事実を発表するのは六年後の九九年四月になってからだ。

 農水省によると、九三年から現在までに日本国内で食肉として処理された受精卵クローン牛は二百四十七頭にのぼる。この数は必ずしも多いといえないが、より問題なのはクローン牛肉「先進国」である米国からの輸入量だ。米国内では一年間で三千五百万頭が食肉として処理され、そのうち「受精卵クローン牛は一割未満」(クローン牛に詳しい専門家)とされる。このうち、どれだけ日本市場に入ってくるのかは不明だ。

 データが把握できない理由は明確で、米国でクローン牛肉の表示が義務化されていないためだ。農水省生産局幹部も「米国で受精卵クローン牛肉は表示なしで流通している。それが日本国内にも流通している可能性は高い」と話す。

 現在、日本国内でも受精卵クローン牛肉についてクローンであることについての表示義務はない。これについて農水省畜産振興課担当者は「流通量が極めて少ないことと安全性に問題がないから」と話すが、この場合の「流通量」とは日本国内産のクローン牛肉だ。年間、二十四万トン(二〇〇二年度)を数える米国輸入牛のうち表示なしでクローン牛肉が日本に何トン入ってくるのか分からない以上、クローンであることが判明している日本国内産クローン牛肉だけ表示しても「意味がない」のが実情だ。

■“受精卵”に続き“体細胞”解禁へ

 今年、米国で販売承認が出される見込みの体細胞クローンは、既に出回っている受精卵クローンに比べ、同質の牛をより大量に生産できる技術で、ブランド牛の大量生産も可能となる。今回、BSE感染牛が発覚したことで米国産牛の禁輸措置がとられているが、輸入解禁は時間の問題で、体細胞クローン牛が米国で販売承認されれば日本に上陸する可能性は高い。

 だが、農水省消費・安全局の幹部は「体細胞クローン牛の表示に関しては米食品医薬品局が何らかの決定を出してからの話で、対応は考えていない」。別の幹部は「体細胞クローンも(受精卵同様)米国から表示なしで入ってくる可能性が高い」と素っ気ない。

 日米とも、表示の義務化に消極的なのは、「クローン牛肉が安全で、一般の牛肉と区別する必要がないから」だが、果たして本当に安全なのだろうか。

 「(クローン牛は)死産や早産が一般の牛に比べ高い比率で発生します。借り腹用の母牛が子宮がんになったり、子宮内で大きく成長し過ぎたりする問題も報告されています。そして、その原因が分かってない」と疑問を投げかけるのは、市民バイオテクノロジー情報室の天笠啓祐氏だ。

 農水省によると、死産と生きて出産後二十四時間以内に死亡する「生後直死」の割合は、受精卵クローン牛で15・2%、体細胞クローン牛で30・8%にのぼる。一般に飼育されているホルスタイン種の死産等の割合は5・3%だ。

 厚労省の研究班は昨年四月、体細胞クローン牛について食品としての安全性に問題はないとする報告書を出しているが、前出の天笠氏は「事実上、生き残った個体がほかの健康な個体と同じで安全、とする報告書でなぜ死ぬかの部分は未解明のままだ」と批判する。

 街の肉屋さんはこの問題をどう考えているのか。九九年、受精卵クローンと表示して試験販売に協力した都内の精肉店主(58)は「あのときは、格安だったこともあったけどクローンのロース肉があっという間に売れた。ただ、それっきり、クローンと名が付くものは扱っていない。だいたい、そんな表示したら売れない。日本の狂牛病騒ぎ以降、お客さんは牛のエサまで敏感になっている。長期的に安全性が確認されないとお客さんは納得しない」と、クローン牛肉そのものに拒否反応を示す。

■農水省の実験わずか14日間

 食品表示の問題などに詳しい消費者問題研究所代表の垣田達哉氏は「農水省の安全性調査でも、ラットにクローン牛の生乳を投与して身体異常がないかを確かめる実験は十四週間、マウスで染色体異常を誘発しないかをみる実験は十四日間と、期間が短すぎる。BSEについて科学者は当初、種の壁は超えないと言っていたが、あっけなく超えた。三十カ月未満では発症しないといっていたのに二十四カ月未満のものに立て続けに出ている。まだ知られていない危険があるかもしれない、という不安の残る中で見切り発車するべきではない」と話す。

 内閣府の食品安全委員会には昨年十一月、福岡県内の男性から「体細胞クローン牛肉の安全性に不安を持っている。流通を認可するのであれば、選択できるよう店頭でクローン牛表示を義務づける必要がある」とする意見が寄せられた。

■個体識別番号 役には立たず

 今年十二月からは、新しい法律によって、小売店で牛肉を販売する際、牛の個体識別番号(十けた)の表示が義務づけられる。しかしこの番号で消費者が判断できるのは、牛の生年月日や食用に処理した年月日、管理者の氏名などで、クローン技術によって生まれた牛かどうかは「現在、予定しているデータベースシステムでは分かりません」(農水省消費・安全局)。

 前出の天笠氏は「受精卵クローン牛肉も含めて、表示義務化は必要なことだ。しかし、これまでの流れだと体細胞クローン牛肉も任意表示になる可能性がある」と話し、表示についても「対米追従」になる危険性があるとの見方を示した。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040105/mng_____tokuho__000.shtml