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2004年01月04日(日) 09時52分

「社会的責任」投資のカギ、企業に環境、人権の調査殺到朝日新聞

 製品に有害物質は含まれていないか、障害者の雇用率は−−。このような「企業の社会的責任」(CSR)に関する調査票が内外の企業や調査機関から国内企業に殺到し、担当者が対応に追われている。財務内容だけでなく、環境保護への取り組みや従業員の待遇なども、投資や取引の判断材料にしようとの考え方が欧米で広がっており、その波が日本にも押し寄せてきた。一緒に上陸した「クエスチョネア・ファティーグ」(質問票疲れ)という言葉も、担当者の間でささやかれている。

 調査票で多いのが、電気製品業界の化学物質調査だ。電子部品メーカーのTDK(本社・東京)には取引先の家電メーカー各社から月に800件もの調査票が届く。部品の成分測定データを添えた回答を求めてくる。2年前には月10件ほどだった。アルプス電気(本社・東京)にも、この2年ほどで家電メーカーからの調査依頼が増え、月200件、部品点数で2千点もの調査に追われている。

 きっかけは、01年にオランダでソニー・コンピュータエンタテインメントの家庭用ゲーム機から基準を超える有害物質のカドミウムが検出された事件だ。130万台の出荷停止とカドミウムが含まれていた部品の交換に追い込まれ、同社は損害を受けた。欧州では化学物質の規制強化が急で、自社製品に使われている部品や素材の成分まで詳細に確認しておかないとリスクにさらされる。日本企業は衝撃を受けた。

 ソニー(本社・東京)は化学物質の自社基準を設け、部品取引先との契約条件にする「グリーンパートナー制度」を昨年4月に導入した。大手家電各社も続き、独自に部品メーカーに調査を依頼し始めた。部品メーカーも素材成分まで把握し切れないため、素材メーカーに調査票を送る。「調査票が業界内を飛び交う状態」(部品メーカー担当者)という。

 06年から欧州連合が、鉛など6物質について電気製品への使用を禁止する「特定有害物質の使用制限令」(RoHS指令)を施行することも拍車をかけている。

 回答に手間がかかる調査も増えつつある。

 「女性取締役の数」「係争中の訴訟数」「障害者雇用率」「取引先への平均支払い遅延日数」「ミャンマー、北朝鮮など非民主国家で事業をしているか」「世界人権宣言の支持表明をしているか」−−10〜20ページ、設問数70〜80とCSR全般について回答を求めてくる調査票だ。

 送り主は、CSR優良企業に投資する「社会的責任投資」(SRI)についての情報を提供する欧米の調査機関や格付け機関、環境配慮企業を投資先に選ぶ国内の投資信託・エコファンドの委託調査機関などだ。それぞれ日本のトップ500社程度に質問票を送る。大手企業には軒並み年10〜30件のアンケートが届いている。

 CSR調査の質問は人事、法務、海外現地法人など社内の多部門にわたり、回答をそれぞれの部門に発注しなければならない。一方、経営理念にかかわる質問には現場では即答できない。

 「社内で取材の手が回らない」(製薬)、「質問の狙いがそれぞれ微妙に違うため、模範回答が作れず、効率化できない」(銀行)といった声が上がっている。「ただ、一つの不祥事で企業が突然死する時代。CSRに取り組むことは避けられない」(家電)との声も強い。

 SRIのコンサルタント会社、グッドバンカーの筑紫みずえ社長は「欧米の投資家は、日本が近く大きなSRI市場になると見込んでいる。企業調査はさらに活発になるだろう。最も危険なのは粉飾回答。自社の年次報告書やホームページで先手を打って情報発信すれば、負担は少ないはず」と話している。

 ■CSR 「Corporate Social Responsibility」の略。企業が社会の一員として持続可能な社会の実現のために果たすべき責任。企業は、株主や消費者だけでなく、従業員、金融機関、取引先、地域社会、環境、NPOなどとかかわり、それぞれに対して情報開示、説明責任を果たすことが求められる。個人や機関投資家がCSRを考慮して行う投資が社会的責任投資(SRI)。欧米で90年代に急成長した。(01/04 09:16)

http://www.asahi.com/business/update/0104/003.html