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2003年07月13日(日) 13時39分

万引き被害14万件、10年前の倍に読売新聞

 育児疲れの主婦、ストレスに悩む会社員、ゲーム感覚の少年たち——警察庁によると、昨年の万引き被害は14万件と、10年前の倍に膨らんだ。

 川崎市では、万引きが見つかった中学生が踏切事故で死亡し、書店が閉店に追い込まれた。「警察や学校に通報するか、穏便に済ませるべきか」。店側も日々迷いながら、自衛の戦いを続けている。(今井 正俊)

 ■「やめられない」

 東京都内のスーパーで今月初め、女性保安員(38)は1人の女性に目をとめた。大きな手提げ袋を持って、目線が泳いでいる。人込みに背を向け、商品を次々に手提げ袋に放り込んだ。店外に出たところで保安員が呼び止めた。警備室の机には、牛乳やネックレスなど計9点総額2万3000円の商品が並べられた。

 31歳。夫と1歳男児の3人暮らし。夫は育児の悩みを聞いてくれない。「欲しいものはない。でもなぜなのか、自分でも分からない。悪いと分かっていても、やめられなかった」と告白した。保安員は「10年前は、服を買う金が無くてという主婦が多かった。最近は、育児ストレスや家庭生活の不満からというケースが増えている」と話した。

 中年男性も増えているという。スーパーで食品を盗んだ大学教授は「単身赴任で寂しかった。万引きすると、気持ちがスッとした」と保安員に語った。

 「社会的地位の高い人ほど、ストレスから羽目を外したくなる。本来の自分らしさを取り戻したい衝動に駆られるのではないか」。保安員の上司の警備会社社長、望月守男さん(56)は解説する。会社社長、司法関係者、時には警察官を捕まえたこともある。彼らは「魔が差した。何とか伏せてほしい」と懇願する。「事情によっては、彼らの失うものの大きさを考えて、警察や会社に通報しないこともある」と望月さんは話す。

 ■「勇気」を誇示?

 千葉県内の大型ショッピングセンター。雑貨店の店主(71)は5月、ライターを万引きした中学生の少年を捕まえた。近くで、仲間らしい4、5人の少年がじっと様子をうかがっていた。

 「次は警察に突き出す」と注意したが、将来を考えて通報はしなかった。数日後、少年たちが店に現れ、アルバイト女性につばを吐きかけた。その後も同じグループの万引きを目撃したが、「その場で捕まえない限り通報できない。大目に見たことは間違いだったのか。店を畳みたいと思うこともある」と店主は語る。

 万引き犯のうち、少年は4割。注意されて「逆ギレ」し、店員に暴行する事件も起きている。警視庁少年育成課の警察官は保護者を呼んだ時、「たかが万引きで」と開き直られ、「甘くみていると、非行から引き返せなくなる。今なら間に合う。悪いことは悪いとわからせることが必要」としかりつけた。

 「ゲーム感覚で万引きするのは、遊びの舞台が変わったことが原因」と指摘するのは、森武夫・専修大名誉教授(犯罪心理学)だ。米国では10—14歳を「ギャング・エイジ」と呼ぶ。森名誉教授は「その年代は、親の支配から逃れようと、自由で勝手な行動をしたがるもの。昔は自然の中で『ギャング』となったが、今の遊び場はコンビニ。万引きによって、仲間に『勇気がある』と誇示する心理が働く」と分析する。

 ■書店は死活問題

 全国の書店の万引き被害は年間300億円にのぼる。経済産業省が昨年、書店約500店を対象に行ったアンケートでは1店あたり210万円。「万引き倒産」という言葉も生まれたほどだ。

 アンケートによると、万引き犯は中学生と高校生が55%、主婦が14%、サラリーマンが7%。1回の被害はコミック本なら平均6・6冊、写真集は4・1冊、文庫新書は4冊。店主たちからは「万引き対策が経営を左右している。死活問題だ」という声も上がっている。

 中学生が死亡した川崎の事故では、万引きへの対応をめぐって議論が持ち上がった。だが、都内のある書店は今も、万引きを捕まえた場合、「『たかが』と放置するのは本人のためにならない」と必ず警察に通報するという。「店ではふて腐れる子供が多いが、警察では素直に反省する」。毅然(きぜん)とした対応は、万引きの減少にもつながっているという。(読売新聞)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030713-00000003-yom-soci