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2003年05月24日(土) 00時00分

『出会い系サイト』規制法案の落とし穴 東京新聞

 有事法制や個人情報保護法案などの重要法案がめじろ押しの今国会で、あまり注目されないまま、成立しそうな法案がある。インターネットの「出会い系サイト」を使った児童の買売春を規制する法案だ。“画期的”なのは、サイトに書き込んだ児童も処罰の対象になることだ。しかし、落とし穴は意外に大きい。 (中山洋子)

 「オジサン遊んで。エッチな関係もアリかなあ」

 「彼氏と別れちゃって寂しい」

 「同じ高校生の男の子じゃ子供っぽいしー」

 「出会い系サイト」に書き込まれた女子高校生らのメッセージだ。軽いノリで記された内容だが、この手のサイトで少女らを巻き込んだ犯罪は急増している。

 警察庁によると、出会い系サイトを舞台にした犯罪は昨年一年間で千七百三十一件を検挙、前年の約二倍に増えた。このうち約47%が児童買春・児童ポルノ法違反だという。また、携帯電話からのアクセスが全体の97%を占めている。

■書き込みしても100万円以下罰金

 すでに衆院を通過した「出会い系サイト」規制法案は、被害を防ぐために児童(十八歳未満の未成年者)のサイト利用を禁じるものだ。法案では、サイトの事業者は利用者が「児童でないこと」を確認しなければならない。これをかいくぐり、児童が性行為を伴う交際や、金のやりとりを条件にした交際を勧誘する書き込みをした場合、児童でも百万円以下の罰金が科せられることになる。

 「出会い系」が犯罪の温床となっていることに異論は少ない。だが、同法案をめぐり議論となっているのは、“被害者”であるはずの「児童」たちも処罰の対象になっていることだ。

■「被害者の処罰 時代に逆行」

 同法案を審議した衆議院の青少年問題に関する特別委員会で、この点を問題視した民主党の水島広子議員は「確かに出会い系では子供から誘う書き込みが多いが、いくら子供が書き込んでも大人が買わなければ成立しない。児童買春の被害者を罰してはいけないというストックホルム宣言を無視し時代に逆行している。経済的貧困による売春だけが問題なのではない。精神的貧困による日本の買売春も(ストックホルム宣言の精神から)配慮されなければならない」と批判する。

 水島議員は「出会い系サイトに援助交際の書き込みをしている子に『それは悪いことだ』と示すには禁止するだけで十分。彼女たちに必要なのは罰則ではなく福祉や教育だ」と述べる。

 しかし、一方で「罰則もやむなし」との意見も少なくない。

 東京・六本木で産婦人科医を開業し女子中高生らの性相談も行っている赤枝恒雄医師は「出会い系サイトを安易に利用して被害にあう少女があまりにも多い。暴力団に脅かされて覚せい剤を打たれたり、売春させられた中学生もいた。『子供だから守られる』といい気になって、大人からお金をもらうことを疑問に思わない子たちを正すには、もはや徹底した規制を設けないと無理だ」と話した。

 問題は、この法律で実際に子供たちを守ることができるのかどうかだ。

■「地下に潜って悪質化の恐れ」

 インターネット犯罪に詳しい岡村弘道弁護士は「出会い系サイトをめぐる犯罪をなんとかしなければならないという“総論”には賛成するが、規制の仕方に問題点が多い」と指摘する。

 まず、児童買春の大半が、子供たちからの申告で表面化している現実を挙げた。「被害者でしかなかった子供たちは、比較的容易に通報できた。だが、処罰の対象になると、子供たちは売春を隠すだろう。犯罪が地下に潜り、より悪質なものになりかねない」と危ぐする。

 さらに「出会い系サイト」の定義のあいまいさが、規制法の恣意(しい)的な運用をまねく危険もあると強調する。

 法案で規定される「インターネット異性紹介事業」とは、面識のない異性との交際を希望する利用者の求めで、その情報をインターネットで公開し、電子メールなどで相互に連絡できるサービスを提供する事業者だ。ただ、この規定をそのまま解釈すると、通常は出会い系とはみなされていない大手プロバイダーの電子掲示板や趣味の仲間探しサイトなども含まれる。利用者が交際希望の書き込みをした時点で、この条件に当てはまるためだ。

 警察庁は、「出会い系」と他のサイトとの線引きを明確にすると衆議院の特別委員会で答弁しているが、現段階ではあいまいだ。

 インターネットジャーナリストの森一矢氏は「例えば、『事業者』でなく、趣味で個人が運営しているサイトに、誰かが大量に買売春の書き込みをしたらどうなのか」と危ぐする。

 「(出会い系サイト規制法は)風営法のコピー法とも言われているが、未成年者を雇った店を取り締まるのと同じ手法で、ネットを規制しようということに無理がある」と、法案の実効性を疑問視する。

 電気通信事業者などでつくるテレコムサービス協会(三百三十社加盟)でも今年二月に「サイトの事業者に対する規制は避けるべきだ」などとする意見書を警察庁に提出している。

■だれが子ども? 分からぬサイト

 同協会では「年齢の確認は現実的に難しい。例えば免許証などの提示を求めるとしたら、それだけ経済的な負担も増えてくる。何が対象になるかが明確ではないので、大手プロバイダーが直接運営しているようなコミュニティー型のサイトの存続すら危うくなっている。さらに『通信の秘密』が脅かされる危険性もある」と危ぐする。

 前出の森氏もいう。

 「犯罪の舞台になるのは、まともなサイトの運営者なら、決して歓迎してはいない。管理者を罰するよりは、例えば大手の出会い系サイトにおとり捜査官が登録し、実際に交際希望者と会い、児童であるかを確認するなどして、犯罪を予防する方がよほど効果がある。こうしたサイトには『警察官立ち寄り所』の表示をすればいい。利用者も安心して楽しめるし、管理者側も悪質な利用者を警察に通報しやすくなる。サイト事業者が処罰の対象にされるだけなら、口を閉ざし通報などしない」

 警察庁では法の成立後に、制度の運用基準についての詳細なガイドラインを作るとしている。

 だが、前出の岡村弁護士は「そもそも法律を作る段階で『何が規制の対象になるか』が、あいまいというのは異常だ。個人情報保護法案での定義のあいまいさと全く同根で、警察庁の立法能力が急激に落ちているとしか思えない。あるいは、わざと“解釈”の余地を残しているのかもしれませんが…」と話した。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20030524/mng_____tokuho__000.shtml

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