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2002年07月22日(月) 00時00分

商品先物の苦情急増 東京新聞

 石油や大豆、トウモロコシなどの商品先物取引の苦情相談が急増している。国民生活センターがまとめた二〇〇一年度の「商品相場」の相談件数は六千件を突破して、六年前の三倍以上にも達する。前年度と比べても一・四倍という急増ぶりだ。高齢者への強引な勧誘が目立つという商品先物をめぐるトラブル最前線を探る。(桐山桂一)

 首都圏の電機メーカーに勤めていたAさんがリストラにあったのは昨年秋だ。五十代半ばで、家族は四人。途方に暮れた。

 「三十年余も勤めたのに…。全く仕事が与えられず、辞めざるを得ないように追い込まれた」

 退職金をもらって一週間ほどして、商品先物の外務員が勧誘に来た。

 「今がチャンスです。トウモロコシの相場は今が底値で、上がる一方ですよ。すぐに倍になりますよ」

 そんな勧誘の言葉だったという。一時間半にもわたって、もうかる話ばかり聞いているうちに、次第に心が動いてきた。

 「家族に内証で、二百万円ぐらいならいいかと思ったんです。契約書類の職業欄には『前の会社名を書け』と言われた」とAさん。

 商品先物取引とは、灯油やゴム、小豆などの商品を将来の一定時期に受け渡しすることを約束して、現在の価格を決める取引だ。業者に預ける委託証拠金より十倍もの額の売買をすることが多く、わずかな相場変動で、利益も損失も大きく変わるのが特徴だ。

■「5割上がった」さらに200万円

 翌日に「もう五割も上がりましたよ」と連絡を受け、Aさんは小躍りした。外務員に誘われるまま、さらに二百万円をつぎ込んだ。

 「次の日にも『今なら二倍、三倍になる』と言われ、調子に乗って、一千万円も入れて、結局、退職金を全部つぎ込んでしまった」

 外務員の指示に従うままに、取引の銘柄はトウモロコシから大豆、コーヒーに変わった。この間に、もうかっていると信じていたAさんは「元本分だけは返金してほしい」と頼み、外務員も了承していたという。

■取引中止依頼に応じてもらえず

 ところが、Aさんが指示した元本分の返金は、いつになっても実行されなかった。問い合わせると、外務員からは「銘柄をコーヒーに変えたから、返金分もそっちの投資に回った」などと返事があった。

 約束が違うと怒ったAさんは取引を中止する「手じまい」をしようとしたが、言を左右にして、応じてもらえなかったという。

 「ある日、外務員から『暴落した。両建てしないと大変なことになる。新たに金を入れろ』と言ってきた」とAさん。両建てとは、同じ銘柄で売り物と買い物を同時に保有する手法だ。

 その時点で、Aさんは苦情相談の窓口に駆け込み、取引を終えることができた。だが、結局、二カ月ほどの間に、退職金は半減、一千万円近い損害が出た。

 「私はいわゆる『客殺し商法』に遭ったんだと思う」とAさんはつぶやく。

■後から分かった禁止行為の数々

 「後で知ったことだが、手じまいさせないのは禁止行為だし、最初から『必ずもうかる』という勧誘の方法もいけない。せっかく利益が出たのに、頼んでも返金せず、業者が勝手に買い増してしまうことも禁じられている。ころころ銘柄を変えるのは『玉ころがし』…。要するに私は『客殺し』の典型的な手口にはまったんです」

 神奈川県の会社経営者Bさんの場合は、「仮に相場が下がっても、投資額の半分以上の損は出ない」という外務員の言葉を信じて、灯油相場に手を出した。

 「でも相場の変動幅によって、損害が半分以上になることはあり、私の場合もそうなった。だから、外務員の言葉をめぐって、トラブルになったんです」

■泣き寝入り狙い客を訴える作戦

 すると、業者はBさんを相手に、債務が存在しないことを確認する訴訟を起こしてきたという。

 「トラブルになった時、客を訴えることで、泣き寝入りさせようという作戦だった。私と同じようなケースで起こされた訴訟も多い」とBさん。

 国民生活センターによると、全国の消費生活センターなどに寄せられる「商品相場」に関する相談の件数は年々増えて、昨年度は六千六十四件にものぼった。
 「しかも、六十五歳以上の高齢者からの苦情相談が、七、八割も占めている」と国民生活センター相談部では強調する。

 「今春から定期預金がペイオフ(預金払戻保証額が元本一千万円とその利子までとする措置)の解禁となった。来春には普通預金もペイオフ解禁となる予定だ。銀行の利息も超低金利なので、うまい利殖法があると、商品先物業者が積極的な営業を展開しているためだろう。退職金など老後の蓄えのある高齢者が狙われやすいといえる」

 もともと、先物の知識のない高齢者らを勧誘するのは不適切と考えられているが、実際には「商品先物がどういうものか分からないまま、業者の言いなりになっているケースが大半」(同相談部)だともいう。

 こんな実態について、業界の自主規制団体である日本商品先物取引協会(日商協)では「会員は現在、百一社あるが、苦情申立件数を会社別データでみると、三社で六割を占めている」と、悪質ケースは一部業者だと強調する。

 だが、日商協は法令などに違反する業者には指導や制裁をすることができるものの、制裁件数は昨年度はわずか七件にすぎない。

 約三十年間にわたって、商品先物の問題にかかわっている新日本消費者連盟の三浦正吉代表は「日商協は実態を十分、把握していない。主婦や高齢者ら不適格者への勧誘が目立つなど、業者の悪質性はひどくなっている」と指摘する。

■業界再編にらみ荒稼ぎする例も

 「二〇〇四年度末に商品先物取引の手数料が完全自由化になる予定だ。銀行など金融業界が自由化によって淘汰(とうた)されたように、先物業界も淘汰にさらされるはず。業者数が半分になることも考えられ、悪質業者などは、今のうちにもうけておこうと、強引なセールスを行っている」

 先月末、ある自動車メーカー系列会社の元経理課長が、会社から三億三千万円を着服したとして、千葉県警に逮捕された。着服の動機は、商品先物で損失が拡大したことだったという。

 「四月にも千葉県内の農協支所長や東京都内の郵便局長による多額の着服・横領が発覚しているが、いずれも先物取引につぎ込んでいた。二十代、三十代のサラリーマンを狙い、消費者金融から金を借りさせて、商品先物に投資させる悪質なケースも多発している。本人の知らないうちに、架空口座で取引されているケースすらある。厳しい監督が必要だ」と三浦氏。

 国民生活センターでは「商品先物は本来、商社などが物資の調達のために行うものだ。素人は手を出さないのが、大原則だ」と警告している。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20020722/mng_____tokuho__000.shtml

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