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2002年05月21日(火) 00時00分

ワルとの闘い・・・自己表現 悪徳商法対策の第一人者堺次夫さん 老朽化したアパートの一室で、仕事をこなす堺さん。穏やかな語り口は、悪徳商法に関する話に移ると、熱気と真剣味を帯びる=東京都渋谷区で 東京新聞

 「ぼろを着ても心は錦」。死語となった感も強い、こんな言葉にふさわしい生き方をしている男がいる。東京都渋谷区のアパートを拠点に、29年間にわたって世にはびこる悪徳商法を被害者の立場から追及し続ける、堺次夫さん(52)。消費者運動の第一人者として法案作成を支援したり、メディアの脚光をしばしば浴びたりと、経歴はむしろきらびやかなのだが、なぜか目線と物腰は極めて低いのだ。

 ■拉致や監禁 体を張った

 八畳、六畳と台所。足の踏み場がないくらい床に積まれた資料の山へ西日が注ぐ。まるでフォークソングの舞台のような一室が、堺さんの活動開始以来の事務所だ。

 玄関扉に自身が会長を務める「悪徳商法被害者対策委員会」の表札。あまたの「ワル」と渡り合った闘士とは信じがたいほど穏やかな風ぼうに、いかめしい雰囲気は消える。

 名刺もシンプル。短大の専任講師など、世間に通りのいい肩書はいくつも持つのに、「−委員会会長」と刷り込んであるだけ。だが、各地の消費生活センターをはじめ、公共機関、企業の新人研修など、全国から講演依頼は絶えない。

 「一緒に悪徳商法の根絶や消費者問題にかかわった仲間からの招きもあるが、やはり自分が現場を知っているからかな」

 岡山県佐伯町生まれ。地元の工業高校を卒業後、一九六八(昭和四十三)年、日立製作所に就職して上京。三年後、会社や仕事に不満はなかったが、「サラリーマンは性に合わない」と退職。たまたま、化粧品販売のマルチ商法の会員となり、実態を“内部告発”したのが、この道に進むきっかけとなった。

 二十四歳の時、自らが全国の被害者代表として、告発、糾弾の先頭に立ち、団体交渉で返金を勝ち取った。

 その後も、ねずみ講、豊田商事事件などの悪質商法が続出。被害者相談や追及運動に走り回った。「『いつまで続くんだ』と不安がなかったわけじゃない。でも『面白いことやったる』の気持ちが勝った。正義背負ってると強いんですよ」と笑うが、悪徳商法の関係者に交渉中、拉致、監禁されたことも。まさに「体を張ってきた」

 こわもてでもなく、気さくな人柄。「最初は役所でも相手にされない。私は風や空気のような存在でした」。それが今やキャリア官僚や弁護士も一目置く存在に。国会でも七四年から九六年まで十回もの参考人発言を通じ、立法を促した。

 七八年、超党派の議員立法で成立した「無限連鎖講防止法」をはじめとする“実績”に、堺さんは決してあぐらをかかない。

 現在も消費者行政、議会関係者らへの協力や情報交換の時間を惜しまない。「(取り組みの)原点である」相談もやめない。事務所内に渡したひもには、悪徳商法被害者らからの手紙がつり下げられている。筋道立てて消費トラブルの経緯を説明できる相談者は少ない。でも根気よく、地道な聞き取りを続ける。

■「団塊」だから同じはイヤ

 「世のため、人のためではない。自己を表現したい」。堺さんは少しはにかみながら、悪徳商法の被害救済に尽力する理由を明かす。「団塊の世代だからでしょうなあ。同世代が多く、人と同じでは存在感を示せない。この活動も先駆者がいれば、長くは続けなかった」

 消費者運動は“冬の時代”とされ、悪徳商法などトラブル相談の窓口である消費生活センターも各地で縮小傾向に。堺さん自身も「時代の流れから言えば少数派」という。

 あえて「悪徳商法に引っかかる方も問題では?」と尋ねると、表情を一瞬引き締め、「ワルは途方もないもうけ話を持ち込むのではなく、信ぴょう性を持たせるのが巧み。最近目立つのは、超低金利時代の不安の中、リストラされた中高年や独り暮らしのお年寄りが狙われるケース。切羽詰まって手を出さざるを得ない状況がある」。説明は事例を挙げながら、具体的だ。

 「弱い者を食いものにするのは許せない。時間はかかるが、流れにさすさおが多くなれば被害はなくなる」「本当の金持ちは被害に遭わない。困っている人が大変な思いをする。そこに共感する立場はずっと変わらない」

 ■目線は低く誇りは高く

 そして、こう振り返った。「出身地では貧乏だった。高校も叔父夫婦の支援で行ったが、貧乏でも『誇りを持って生きろ』と教え込まれたんです」。目線と物腰の低さの理由が分かった気がする。

 文・堀場達/写真・久野功/紙面構成・羽田昌弘


http://www.tokyo-np.co.jp/00/thatu/20020521/mng_____thatu___002.shtml

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