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2001年11月30日(金) 00時00分

いずれ1000億円の利権に 無効票なく開票迅速化 「電子投票」導入の“怪” きょう法案成立 東京新聞

 投票は画面にタッチ、開票集計も瞬時に終了−。こんな「電子投票」を可能にする公職選挙法特例法案が三十日、参院本会議で可決、成立する。将来はコンビニ感覚の「どこでも選挙」に道を開くものだが、ハッカー(妨害)を恐れるあまりIT(情報技術)の恩恵を無視した条項がめじろ押しで、専門家は「事実上の電子投票“阻止”法だ」と批判する。端末機は一千億円市場への成長が見込まれるため「裏には利権争いがある」との指摘も。背景を探った。(立尾良二)

 片山虎之助総務相は二十八日、参院政治倫理・選挙制度特別委員会で「米大統領選もフロリダ州で一種の失敗をした。だから米国はものすごい予算をつけて(電子投票の)研究開発に入っている。日本もIT大国を目指して試行することにした」と、遅ればせながら選挙の近代化を図る方針を強調した。

■当面の導入は地方選挙のみ

 電子投票は当面、導入を希望する自治体を対象にして、地方選挙に限り実施する。投開票の方法は、有権者が送付された入場はがきを持って指定の投票所に出向き、本人確認するまでの手続きは現行通り。投票用紙の代わりにICカードを受け取り、銀行のATM(現金自動預払機)のような画面のある投票機にカードを差し入れる。画面に候補者一覧が表示され、有権者は名前に指で触れて投票する。

 開票と集計は、投票終了後、投票結果を記録したフロッピーディスクを投票機から取り出し、投票所から開票所へ搬送して機械で集計する。総務省は、利点として▽誤字脱字など疑問票による無効票や、類似氏名の案分票がなくなる▽開票作業が迅速化し、投票用紙の印刷代や投開票の人件費などの経費節減になる−などを挙げる。

■通信回線使わずディスクは搬送

 ただ「投票結果を記録したフロッピーディスクがすり替えられる不正はないか」「通信回線からハッカーが侵入して結果を改ざんする危険はないか」などの問題点も指摘されている。

 そこで特例法では、ハッカー防止のため「投票機は電気通信回線に接続してはならない」と規定。これまでの投票箱搬送と同じように、投票所から開票所にフロッピーディスクを人為的に運ぶことにした。総務省の大竹邦実選挙部長は「投票結果を記録したディスクは、パスワードと暗証番号により不正アクセスを防ぐ。堅牢(けんろう)な封印容器で開票所へ運ぶため、移送中のすり替えも防止できる」と説明する。

 しかし、十年以上にわたり電子投票を研究してきた政治広報センターの宮川隆義社長は「なぜ投票所と開票所をオンライン化しないのか。すでに英国では携帯電話で投票結果を送っている。内容は暗号化され、二重ロックをかけて送信可能だ。電話をわずか一、二秒つなぐ間にハッカーされる心配は全くない。むしろフロッピーディスクを開票所へ運ぶ方が、不正や事故の危険がある」と指摘。

 また「身障者や高齢者の投票を容易にする音声ガイダンス付きの投票機もできるのに、法律にはバリアフリー対策が盛り込まれていない。ITの恩恵を全く無視しており、これは電子投票阻止法と言っても過言ではない」と憤る。

 世界のすう勢はどうか。政治広報センターによると電子投票をすでに導入しているのは米国や英国など十三カ国、準備中はフランスなど四十三カ国、検討中は日本など九カ国。

■補助金は米国のたった100分の1

 米国の場合、昨年の大統領選の投票方法はフロリダ州で問題を起こしたパンチカードが31%、集計のみを電子化した光学スキャンが30%、電子投票は12%などだった。米下院はこのほど、電子投票の普及を図るため同投票を採用する州や自治体に年間四億ドル(約四百八十億円)の連邦補助金を拠出する方針を決めた。

 ところが、日本では電子投票の来年度概算要求額はわずか四億四千万円。しかも導入を希望する自治体への国庫補助は二分の一だけだ。総務省試算では、投票機は一台約四十万円。人口十万人の都市には投票所が約五十カ所あり、一カ所に投票機を六台ずつ置けば、投票機だけで合計一億二千万円の予算が必要になる。

 広島市と岡山県新見市が先陣を切って電子投票の導入に早々と手を挙げていたが、法律の審議状況や概算予算額を見て様子が変わってきた。ことし二月に電子投票研究会を発足させた広島市は有権者数約八十八万人、投票所数約二百五十カ所。総務省は「広島市が電子投票を全面的に導入すれば、八億八千七百万円の予算が必要」と見積もる。

 このため衆院段階で法案に修正が加えられ、広島市のような政令指定都市は行政単位(区)ごとに電子投票を導入することが可能になった。しかし、補助金の上限は半額までとの総務省方針に、広島市選挙管理委員会は「実験だから全額国庫負担と思っていた。市の負担が重ければ、手を挙げる自治体はなくなる」と言う。「そもそも複雑な国政選挙を電子化するから意味がある。市長選だけなら開票は手作業でも二時間で終わる。電話線で投票結果を送れないなどITのメリットが生かされていない」と制度を疑問視する。
 
■「日本のIT産業参入無理」の危ぐ

 一方、九月に研究会を旗揚げした新見市は有権者数約一万九千人、投票所数四十三カ所。総務省の概算要求の枠内で導入できそうだ。ところがこれにも変なうわさが飛んでいる。

 二十八日の参院特別委で小川勝也委員(民主)は「今朝、怪文書が届いた。先に手を挙げた広島市は規模が大きくて予算措置は無理で、片山総務相の選挙区の新見市だけが導入できるのはおかしいというものだ。なぜ悪口を書かれる法律になったのか」と質問。片山総務相は「妙な文書が来たようだが、広島も新見も導入したいのなら平等に扱う」とかわした。小川氏は「総務相や電子投票にかかわる議員の選挙区は、試行自治体から外して公正を図るべきだ」と注文した。

 また総務省が試算する投票機は米国製機器をモデルにしている。宮川氏は「米国は大量生産しているから一台四十万円で済む。しかし日本の企業が生産すれば当初は一台百万円以上かかる。投票機は、いずれ国政選挙に導入されて一千億円市場に膨らむ。最初に米国製品を導入すれば日本のIT産業は入り込む余地がなくなる」と危ぐする。

 ある国会議員は「電子投票の導入は巨大な利権そのものだ。もともと熱心だった竹下登元首相が亡くなり、利権を分配する仕切り屋がいなくなった。このため宙に浮いた利権に群がっている状態だ。IT産業に権益をもつ旧郵政省(総務省)と旧通産省(経済産業省)が激突している一例でもある」と分析。「投票機の機種選定や入札は透明性をもたせ、監視しなくてはならない」と言うのだが…。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20011130/mng_____tokuho__000.shtml

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