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2001年04月27日(金) 00時00分

■在宅ワーカー増加で発注形態も変化 課題は山積みのまま毎日新聞

 自宅でパソコンなどの情報通信機器を使い、インターネット関連の仕事をする在宅ワーカーが増え続けている。ライフスタイルの変化とともに、ネットの普及で急速に広がった就業形態の一つだ。それに伴い、契約上の賃金トラブルなども相次ぎ、悪質商法のターゲットになっている。行政サイドも昨年あたりからようやく重い腰を上げ始めたが、個人主導型のワークスタイルでもあり、ワーカーの数さえ十分わかっていないのが実態だ。

◆◆初心者向けガイドブックを増刷

 「1月から配布を始めたんですが、口コミで広がって初版の1万部がなくなり、もう1万部増刷しました」。厚生労働省の外郭団体、21世紀職業財団の高田義文・短時間在宅労働業務部次長は「在宅ワークハンドブック」の反響の大きさに驚いた。仕事の現状や基礎知識、実践マニュアル、経験者談などをまとめた冊子だ。適性を見る自己能力診断などもあり、初心者向けガイドブックとして人気を集めている理由は分かる。

 ただ、これまでこの種のハウツウー書がほとんどなかったから、希望者が飛びついた、という方が正しいかもしれない。それだけ、在宅ワークの裾野が広がりを見せている。

 関係者によれば、(情報通信機器使用の)在宅ワークという言葉が使われ始めたのは1993〜94年ごろ。仕事はパソコンのデータ入力が中心だったという。まだ一部のオフィスで使用されていただけだったが、95年以降にパソコンの普及を追いかけるように広まった。オフィスでパソコン業務をしてきた女性が、結婚や出産などで自宅に入り、あるいは介護などから在宅の仕事を探す女性が増え始めたのと重なった。この1、2年は一部女性雑誌などで「誰でも自宅で高収入」などと書かれたこともあり、希望者はさらに増えて40万人はいるとの見方もある。

◆◆悪質商法のターゲットにも

 厚生労働省のシンクタンクの一つ、日本労働研究機構(JIL)が97年10月に行った調査が実態調査の最初と見られ、現在もこのデータが行政サイドなどでも使われている。当時の在宅ワーカーは推計で17万4000人、うち7割が女性。主な仕事のトップは文章入力・テープ起こし、次にデータ入力が続いている。当時から納期や報酬支払いなどのトラブルは頻繁にあり、仕事の提供を装って勧誘し、高額なパソコンや教材などを売りつける「インチキ内職」の事例もしだいに増えていく。

 国民生活センターによれば、3年ぐらい前からネットの在宅ワークに関係する相談が増えている。相談部の増田まや・調査役補佐は「ネットとか言われると仕事がたくさんあると思い込んで、仕事をする前からCD-ROM代とか補償金とかの名目でお金を払い、結局、仕事をもらえないケースがある」という。また、同センターの上原章・消費者情報部部長は「30代の女性に多く、業務でパソコンを使っていた人、ホームページの作成などをやったことがある人なども、悪質業者にとって狙い目になっている」と話し、経験者でもひっかかる実情を明かす。

◆◆広がるアウトソーシング

 JILの勤労者生活研究担当で、在宅ワーク分野の行政サイドの第一人者である神谷隆之さんは、在宅ワーカーが増加したこともあり、就業形態はさらに変わりつつあると分析する。「できる人とできない人の格差、選別が広がっている。同時に、アウトソーシングの形態が爆発的に増え、優秀な人材の囲い込み、重層的な下請け構造ができつつある」というのだ。在宅ワーカーが仲介業務をやるようになって会社組織にするケースもあり、建設業界のような構造もできつつある。

 神谷さんは、アウトソーシング、発注形態の変化などは景気の影響も受けているとみる。実際、97年に調査した対象者の追跡調査でも、問題として浮かび上がっているのは、仕事の確保の困難さ、収入の不安定、単価の安さ、納期のきつさ−−など問題の拡散も特徴だ。「ここ数年は試行錯誤が続く。在宅だけを見るのではなく、雇用一般の変化との関係で、在宅ワークをどう位置づけるか。それによって方策も変わってくる」と指摘する。 在宅ワーカーのパイオニア、笠松ゆみさん◆◆個人ワーカー、仲介業者、発注者

 在宅ワークのパイオニアの一人で、現在、在宅ワーク仲介会社「キャリスト」の代表を務める笠松ゆみさんの見方は、ワーカー、事業者の双方に厳しい。「ワーカーは、パソコンやネットワークの発達に伴い、常に脱皮中であることが必要。いわば、いつもスニーカー履きで対応すべきだ」とスキルアップや情報収集の大切さを強調する。

 仕事自体は、ウェブライターなどネットの活用とともに多様化し、その点からも、これからは個人では仕事がとりにくくなると判断。「企業は一部の囲い込みワーカーを除き、個人営業のワーカーの無責任さも知っている。原稿を燃やしてしまったとか、親が倒れて納期に間に合わないとか。リスクが大きければ、ビジネスとして責任のある仲介会社と組むのは当然」というわけだ。

 そうなると、個人では仕事を取りにくくなるので、「仲介会社に対する認可制とか何らかの法的な線引きも必要」と強調する。機密保持誓約書などを交わさずに、重要データの入力を契約するワーカー、発注者(仲介を含む)なども多いのが実態で、契約のレベル差は依然として大きいという。

 パソコン通信を独学で学び、在宅ワーカーとしても契約者が発注後に突然いなくなるなど多くの辛酸をなめてきただけに、笠松さんの発言には説得力がある。「役所にできることは限られている。トラブルでは助けてもらうべきだが、極力自己努力で解決してほしい」「この働き方を社会に根づかせたいと思っている人は、私を含め大勢いる。家庭にダイヤの原石が埋もれているようなものだから、がんばりましょう」とエールを送る。

 厚生労働省も昨年6月、「在宅ワークの現状と実施のためのガイドライン」を作るなど、在宅ワークハンドブックとともに適正契約、トラブル撲滅のための具体的な活動を始めた。ただ、在宅ワークは労働基準法など法的な適用外にあり、21世紀職業財団が始めた相談業務などのデータを基に、どこに問題があるか、場合によっては規制をかけるかなどの検討は始まったばかりだ。印刷、出版業界などに多いと言われてきた発注者の発注形態も把握できていない。「在宅」という就労形態をどう定着させるか、課題は広がっている。

[21世紀職業財団]
http://www.jiwe.or.jp/

[日本労働研究機構]
http://www.jil.go.jp

[国民生活センター]
http://www.kokusen.go.jp/

[キャリスト]
http://www.carist.com

[厚生労働省]
http://w
 ww.mhlw.go.jp

(鈴木 隆)

http://www.mainichi.co.jp/digital/coverstory/archive/200104/27/index.html

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