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1999年11月17日(水) 00時00分

(15)ネット上で疑似セックス読売新聞

◆デジタルな快感の危うさ

ネット上だけの付き合いだからこそ、チャットの相手に性的な本音も出せるという

「また、インターネットやってるの? 先に寝るよ」。そう言い置いて夫が先に寝室に行ったのを確かめると、神奈川県の主婦、美佳子さん(34・仮名)は急いでノートパソコンの画面を切り替えた。

 夫が眠った後、ひそかに楽しむのが、“チャットセックス”。チャットとはおしゃべりの意味で、インターネットの利用者同士が文字で性的な会話を交わす疑似セックスのことだ。

 「まだパジャマなの」

 「脱がせてあげる。ボタン外したよ、肌が白いね」

 「恥ずかしい」

 「ぼくも脱いじゃった」

 キーボードをたたきながらこんな会話をしていると、あっという間に1—2時間過ぎてしまい、深夜に及ぶことも。ベッドに入った時には、夫はぐっすり寝入っている。チャットにはまってから、夫婦の間に性交渉はないが、「相手に合わせなくてはならない実際のセックスより、言葉を使って自由に想像力が膨らませられるこっちの方が、はるかに楽しい」。

 昨夏、パソコンを購入して以来、ネット上でいろいろな人とおしゃべりができるチャットのおもしろさにひかれて、あちこちのホームページを試しているうちに、半年前から性的な会話を楽しむようになった。

 「既婚者だからといって、夫以外の男性と性的な会話ができないのではつまらない。でも、面倒臭いトラブルになるのは嫌なので、不倫は望みません」。チャットの相手に誘われても、実際に会うことはない。

 2人だけでこうした会話ができる「ツーショットチャット」とか「個室チャット」と呼ばれるシステムを設けたホームページは現在、1000近くあると言われている。

 ツーショットチャットの“部屋”を50室設けている、あるホームページに平日の夜10時ごろ接続してみると、3分の1近くが使用中、残りは男性が「エッチな話をしよう」などのメッセージを残して「待機中」となっており、空きはほとんどなかった。

 精神科医の香山リカさんは現代人がネット上の疑似セックスに夢中になる理由を「インターネットは、心理的なよろいを捨てて裸の心をさらけ出しやすいという特性を持ったメディアです。現実の世界では様々なしがらみから本音を出せない人たちが、社会的背景を共有しない相手だからこそ、心を開けるのでしょう」と説明する。

 京都大学名誉教授(大脳生理学)の大島清さんは「言葉のやりとりによって性的に興奮するのは、発達した脳を持つ人間ならではの行為と言えるでしょう」と、チャットセックスはある意味で“人間的な”行為だと指摘。その一方で、「肌を触れ合う触覚、声を掛け合う聴覚を伴うのが本来のセックス。デジタルな快感だけでは性の深みがなくなる」と危ぶむ。

 泥臭い自然経験や濃密な人間関係がますます薄くなっていく現代。大島さんは今後さらに仮想現実的なセックスを求める人が増えるかもしれないと予測する。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/sfuukei/fe_sf_19991117_01.htm