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1999年11月12日(金) 00時00分

(12)仲間の“常識”で行動左右読売新聞

◆性教育「面白くない」 まだなの?に焦り

 「えっ、うそー」。栃木県足利市の高校に通う朋美さん(仮名・16)は、思わずドキリとした。10月下旬、同市内の高校生を対象に開かれた性教育講座でのこと。クラスの保健委員をしていた彼女は、担任の教師に勧められて渋々参加していた。

 ビートの利いたダンス音楽が流れる中、ショートパンツにアームウオーマー姿の女子短大生4人が講師役として参加者の間を回りながら、避妊法や性感染症について質問していた。そのうちの1人が「コンドームをつけるか、ピルを服用するかして、きちんと避妊しない限り、たった一回だけのセックスで妊娠することもあるんだよね」と周りを見渡した時だ。

 朋美さんは、同級生から「最初のセックスじゃ妊娠しないよ。私も避妊しなくて大丈夫だったから」という話を聞き、そう信じていた。高校2年生。すでにクラスの何人かは性体験があり、セックスを身近に意識していた。

 学校でも性教育を受けていたが、「先生が一方的にしゃべってるって感じで、全然面白くない。友達の話の方が参考になる」と言い切った。ただ、その一方で「周りからいろいろ聞くと、友達より遅れているのかなって時々焦っちゃうことがある」と本音ものぞかせる。

 地域や学校と連携して、この講座を開いた自治医大看護短大(栃木県南河内町)の高村寿子教授が注目しているのは、こうした仲間の行動に大きな影響を与える「ピア・プレッシャー」だ。ピアとは英語で仲間の意味で、仲間の行動に影響する言葉や行動がこう呼ばれている。

 「1番強いピア・プレッシャーは、セックスまだなのという言い方。それで焦り、仲間外れになりたくない一心でセックスしているケースが少なくない」と指摘する。ほかにも、「○回デートをしたら、セックスするもの」「女がコンドームをつけてほしいと言うと嫌われる」など。大人の目から見ると、根拠もなく、荒唐無稽(むけい)に思えるようなことが若者の間の“常識”となって、個人の行動を左右しているという。

 「今の若者は、仲間でかたまり、大人の押し付けには反発する。しかし、仲間内でも本音で話せない、人と向き合えない子が増えている。だから表面的な情報に流されやすい」と高村教授は指摘する。こうした若者の心に届く性教育の方法として、91年から自分のゼミの学生たちと一緒に「ピア・カウンセリング」に取り組んできた。

 イギリスで生まれたこの方法の特徴は、同世代の「仲間」が講師を務めること。大人が考える若者の性のあるべき姿を押し付けるのではなく、セックスに対する意識が近く、同じ悩みを抱えている者が一緒に考える形をとらない限り、若者に受け入れられないと高村教授は考えている。

 東京都の教師らで作る性教育の研究会が今年1月、高校生約3200人に行った調査では、3年生の性交経験者は4割近く。うち初めての時、避妊しなかった生徒は約40%にのぼった。

 「知らなかったら、やばかったよね」。朋美さんの言葉に実感がこもっていた。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/sfuukei/fe_sf_19991112_01.htm