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1999年11月10日(水) 00時00分

(11)性感染症 無防備な若者読売新聞

◆身近にある危険、なのに少なすぎる知識

 「ビョーキにかかって今、薬もらってる」。東京・六本木のファミリーレストラン。18歳の女子高生加奈子さん(仮名)はあっけらかんとそう言った。

 「やばいかな」と思ってはいた。おりものが続き、かゆみも消えない。産婦人科の医院で「カンジダ」と診断された。「本気でも遊びでも、コンドームつけなかったから、だれからうつされたのか分からない。でも薬で治るから、まぁ、いいか。彼氏には話してないけど……」。幼さが残る表情にはそぐわない過激な言葉が次々飛び出してくる。

 彼女の初体験は中学生の時。相手はナンパされた24歳の社会人だった。友達や雑誌を通じて、セックスのことを知り、自分も早く体験しなきゃとプレッシャーを感じていた。その時もコンドームはつけなかった。

 以来、自分からコンドームをつけてと頼んだことはない。「今の男の子はつけたがらないよね。私もナマじゃないと気持ち良くないし、相手につけてって言うのも面倒くさいし、間が空いちゃうし」。無防備なセックスをして、妊娠や性感染症への不安はないのか。「まだ、私は大丈夫って余裕ぶってるのかも。ビョーキなら薬で治る。ただ、エイズだけは怖いから検査は受けない」

 昨年度、厚生省の性感染症に関する研究班が、全国を7つのブロックに分け、各ブロックごとに選んだ一つの道県内のすべての産婦人科、泌尿器科、皮膚科、性病科を対象とした大掛かりな性感染症の調査を行った。

 その結果、10万人当たりの性感染症の推計罹患(りかん)率は、男394人、女553人で、従来の調査に比べ女性の感染率が高かった。女性は10歳代後半から罹患率がぐっと増え、ピークは20歳代前半。一方、男性のピークは20歳代後半で、女性に比べて分布カーブがゆるやかなのが特徴だ。また、日本は先進国で、90年代後半にりん病の感染率が上昇している唯一の国。HIV抗体陽性も増えている。

 「症状の表れない病気もあるので、この数字も氷山の一角。身近にある危険なのに、危機感があまりに薄い」。研究班の班長を務める札幌医科大名誉教授の熊本悦明さんは苦り切る。

 東京・六本木のハンバーガーショップの一角で、今年4月から毎週木曜の夜に女性の無料健康相談を行っている地元の産婦人科医、赤枝恒雄さんも、「今の若い子は自分の体の仕組みや避妊、病気についての知識は驚くほど少ない。この背景には街にはんらんしているセックス情報の存在が大きいのではないか」と指摘する。

 雑誌や漫画、アダルトビデオのセックスに、コンドームはまず登場しない。コンドーム不使用を売り物にする風俗産業など、刺激的な性情報があふれ、彼女たちもセックスはこういうもの、性器の接触だけだと思い込まされている。

 セックスを「食べちゃった」と表現する言葉遣いに、互いに向き合う濃厚な関係より、その場限り、頭で覚えた通りにセックスをこなす姿が透けて見える。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/sfuukei/fe_sf_19991110_01.htm