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1999年11月06日(土) 00時00分

(9)寝室分け、心にゆとり読売新聞

◆ダブルベッドにため息・・・

夫婦同室でも、家具で仕切ってそれぞれのプライバシーが守れるタイプの住宅も売り出されている

 8畳間にでんと置かれたダブルベッドを見ると、ため息が出る。「どうしてこんなもん、買っちゃったのかな」

 神奈川県の百貨店でパートで働く久美子さん(41)(仮名)は、1歳上の夫と恋愛結婚して15年。目が覚めてパートナーの顔を間近に見られる幸せを感じたのは新婚の1、2年だった。「けんかした時なんか最悪。寝返りにも寝息にも腹が立って、眠れないもの」

 手を少し伸ばせば、相手のからだがある。夫は自分の都合でスキンシップを求めてくるが、久美子さんにはうっとうしい時もある。「一人で寝たいなあ」と、何気なくつぶやいてみたが、夫は「なんで?」といかにも不機嫌そう。性生活を全面拒否されたと思ったらしい。

 健二さん(33)と直美さん(34)(共に仮名)は、東京のパソコンソフト開発会社の同僚カップル。二人とも持ち帰りの仕事が多く、就寝時間がばらばらなため、一つの部屋を大型の収納家具で仕切り、独立した寝室を二つ確保した。惰性に流されがちな日常と一線を画することで、パートナーとも新鮮な気持ちで向き合えるのがいいという。

 「相手の気配がわかるから、ころ合いを見て彼女のベッドにもぐり込む。現代版夜這(よば)いといったところ。ただし最近は、彼女から逆夜這いかけられる方が多いかな」と、健二さんは笑った。

 家族の寝方を研究している日本女子大の篠田有子講師が、「婦人公論」の女性読者約1800人(平均年齢42・8歳)を対象に望ましい夫婦の寝室について聞いたところ、45%が「同じ部屋で寝るのが当然」と答えたが、別室支持派も35%いた。後者の理由は、「夫の帰宅時間が遅い」「夫がテレビを見ながら寝るのでうるさい」「いつも一緒は疲れる」などだ。

 旭化成工業の共働き家族研究所(東京)が1500人の男女を対象にした同種の調査では、男性より女性に、若年より熟年に、夫婦別寝室を支持する傾向が強かった。インテリアデザイナーの栗山礼子さんは、10年前初めてある住宅メーカーに夫婦別寝室を提案した時、男性役員に強硬に反対された。「セックスから雑用まで、男は女がそばにいた方が楽だと思っているから」と栗山さんは解説する。

 青森大学教授でエッセイストの見城美枝子さん(53)は、ここ数年夏だけは、実業家の夫(53)と寝室を別にしている。暑がりの夫はクーラーをがんがんかけて寝る。見城さんは冷房が苦手で、毛布を4枚かけても震えている。年々二人の体感温度差は開くばかりで、「お互いもう我慢の限界だった」。

 別寝室にすると、夫婦関係がほころびかけているようにみえるのではと不安がる人もいるが、「寝室は夫婦一緒でなければならないという固定観念は捨てた方がいい」と見城さんは断言する。「ある程度の年齢になると、起床時間や眠りの深さなど、夫婦間で差が出るのは当たり前。離れてみると、自分にもゆとりが生まれ、相手を思いやる気持ちが増した気がします」

 別室で寝るという選択は、時に夫婦関係を潤滑にする効果があるのかもしれない。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/sfuukei/fe_sf_19991106_01.htm