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1999年11月04日(木) 00時00分

(7)面倒くさいと「拒性症」読売新聞

◆親密な人間関係築けぬカップル

 「セックスしないで子供をつくる方法、ないですか」

 東京都内の病院のカウンセリング室でそう切り出したのは、結婚3年目で30歳代前半の共働き夫婦、誠一さんと香織さん(共に仮名)。友人の紹介で知り合い、1年間交際して結婚。セックスだけでなく、抱き合ったりキスしたりしたこともないという。

 「なんか人の唾液(だえき)って不潔じゃないですか」と誠一さんが言うと、香織さんも「そうそう。相手に触れる時、さっき手を洗ったかなとか考えてると、面倒くさくなっちゃうよねえ」と、相づちを打った。性生活以外では、仲よしの夫婦にみえる。

 2人が相談に来たのは、親から「そろそろ子供のことを考えたら」と、せっつかれたからだ。香織さんは「周囲の友達も子持ちが増えてきたから、いてもいいかなと思い始めた」そうだが、一方の誠一さんは、排卵日に香織さんの誘いでセックスしようとした時にうまく勃起(ぼっき)せず、「それっきりおっくうになってしまった」という。「2人とも忙しくて時間を合わせるのが大変。できれば、人工授精でお願いしたい。そうしたら、セックスなんていうかったるいことから解放される」

 日赤医療センター(東京・渋谷区)で性カウンセリングを担当する金子和子さんはこうしたカップルに対して、「子供つくるだけなら、来る場所が違うんじゃない? 2人の間にある性の問題に真正面から向き合ってみたら」と、アドバイスするが、出直して来るカップルは皆無。「セックスの生々しい感覚に拒否感を抱き、自我の境界を守ろうとする。親密になることが不安で、人間関係をうまく築けないタイプ」とみる。

 「セックスレス・カップル」という言葉を、1991年の日本性科学学会で初めて報告したのは、現在千葉県浦安市で開業する精神科医の阿部輝夫さんだ。「決まった性的パートナーがいて、単身赴任など特殊事情が認められないにもかかわらず、性交渉が一か月以上なく、その後も同じ状態が長期にわたることが予想される場合」と定義した。阿部さんによれば、84年から97年の13年間で診察した性障害患者819人中、半数近くの389人がセックスレスの男女だった。

 セックスレス・カップルは勃起障害や性交痛などが原因で「したくてもできない群」と、「しなくていい群」に二分される。一番多いといわれるのは、倦怠(けんたい)期や年齢を理由に、セックスレス状態をあきらめているケースだが、気がかりなのは、2人の合意で「セックスしなくてもいい」と言っている人たち、と阿部さんは指摘。こうした症状を「拒食症」になぞらえて「拒性症」と呼んでいる。

 自慰行為で手軽に処理できるのに時間をかけるのはもったいないというのが彼、彼女らの考え方。「一見合理的だが、その結果生じる対人関係トラブルに無関心でいられる。自分の言動が相手に与える不快感や痛みに思いを巡らすことができないのは、現代の病だ」と、分析している。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/sfuukei/fe_sf_19991104_01.htm