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1999年11月02日(火) 00時00分

(5)更年期 本音と我慢読売新聞

◆ふくらむ空想でも実際は夫まかせ

「パートナーには、自分の欲求を素直に話した方がいい」と、池下さんはアドバイスする(東京・銀座のクリニックで)

 「このまま女を終わってしまうのはなんだか寂しい」

 ジーンズが似合う主婦の優子さん(49)(仮名)は、そう言ってうつむいた。最近は生理があったりなかったり。更年期だから仕方ないと、自分に言い聞かせている。若さへのこだわりは人一倍強く、週2回水中エアロビクスに通っている。引き締まった足首は年齢を感じさせない。

 東京都内の大学勤務の夫は3歳上。結婚24年、2人の息子はすでに成人した。子供中心に動いてきた生活軸をそろそろ夫婦中心に戻さなければと、温泉旅行を提案したが、のってこない。胸の開いたセクシーなドレスを買って、「見て、見て」とはしゃいでも、はしたないという風に眉(まゆ)をひそめるだけ。「あの人、性を罪悪視しているんです」

 一人になった時、優子さんは理想とするセックスを思い描く。〈朝まで腕枕(うでまくら)で眠りたい、菜の花畑や星空の下で抱かれたい、鏡のある部屋で刺激的な愛され方をしてみたい……〉。空想はふくらむが、夫には言い出せずにいる。

 「私から誘うなんてとてもできない。いい年して何だって、相手にしてくれないのはわかっているから」

 東京・銀座で婦人科クリニックを開業している池下育子さん(47)のもとには、優子さんのように、満たされない思いをパートナーに打ち明けられず、悶々(もんもん)としている女性たちが相談を寄せてくる。その多くは、40歳代半ばから50歳代半ばの更年期世代。

 女性の更年期は、閉経前後の約10年間をいう。この時期、のぼせやほてり、頭痛などの不快な症状のほか、性生活では、性交痛に悩む女性が少なくない。それについては社会の理解も進んできた。が、一方で、老いること、色恋とは無縁になるかもしれないことへの不安やあせりといった、女心の揺れはほとんど無視されてきたといっていい。

 池下さんは2年前、40—50歳代を中心に男女254人に性生活のアンケートをした。女性の性欲について、一般論では、男女とも9割以上が「あって当然」と回答、女性の6割以上が「死ぬまでなくならない」と考えていた。だが実際の性生活では男性まかせにする傾向が強く、自分の性欲をしっかり主張しない人が多かった。「この世代の女性の性に対する考え方は意外に古風」と池下さん。

 同じように、荒木乳根子・調布学園短大教授(心理学)の更年期世代前後の女性309人を対象にした調査(97年)でも、「夫は自分本位のセックスしかしない。私の好みを伝えたいけれど、機嫌を損ねるので我慢している」「5年前から夫の勃起(ぼっき)障害でセックスレス。医者に相談してほしいが、言い出せない」といった書き込みが、自由記述欄に目立った。

 池下さんは言う。「更年期は生殖のためのセックスから解放されて気分的にもリラックスできるし、人生キャリアが長い分、より深い性愛を味わえる時期。『女は卒業』などと性欲にふたをせずに、パートナーと向き合って、率直に思いを伝える努力をした方がいい」

http://www.yomiuri.co.jp/feature/sfuukei/fe_sf_19991102_01.htm