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1999年10月28日(木) 00時00分

(2)老いても枯れたくない読売新聞

◆「70歳代の6—7割が関係求めている」

 横浜市在住の福祉評論家、吉沢勲さん(58)は、「生涯性春を楽しむために」と題する講演で、全国の老年大学を飛び回っている。

 「91歳の男性と78歳の女性のカップルが温泉旅行に行き、1週間で2回もセックスしたのはやり過ぎかと尋ねてきた。いくつになっても性欲はあって当然です」

 「夫と死別した72歳の女性が再婚することになり、25年間性生活がないのを心配して産婦人科へ。若い男性の医者は『もうそんなこと考えなくていいでしょう』と、何のアドバイスもしてくれなかったそうだ」

 デンマークで老人福祉を学んだ吉沢さんは、約30年間医療施設などでセラピストとして活躍。その時の相談事例を歯に衣(きぬ)着せぬ語り口で紹介するので、会場はお年寄りの明るい笑いに包まれる。

 「主催は地域の教育委員会。10年前なら考えられなかった企画ですね」と、吉沢さん。とはいえ、参加者の中には、「性春のセイの字が違う。老人をばかにしている」とまじめに怒り出す人もいるという。老人は枯れていく存在で、性について考えるのは「いやらしい」「恥ずかしい」とみる風潮が決してなくなったわけではない。

 「老人にも性欲はある」。1970年代半ば、保健婦活動を通じて60歳以上の男女510人から聞き取り調査した大工原秀子さんはそう看破した。しかし当時は、「臭いものにふたをしてあったのになぜ開けるのか」という拒絶反応が強かった。その後90年、調布学園短大の荒木乳根子(ちねこ)教授が東京、神奈川の60歳以上の男女428人を調査。70歳代でも男女とも6—7割は何らかの性的関係を求め、男性の2人に1人は性行為を望んでいることを明らかにした。

 元お茶の水女子大学学長で、心理学者の波多野完治さん(94)は6年前、著書「吾れ老ゆ故に吾れ在り」で、「老人と性との関係を世間はまちがって考えている。性行為の閉止は性生活の入口みたいなものだ。つまり、そこから、真にはれやかな、絢爛(けんらん)たる性の世界がひらかれるのだ」と書いた。

 心筋梗塞(こうそく)で約3か月入院した66歳を境に「肉体的に『男』でなくなった」が、その分「よけい性欲が燃え上がった。性について考える時間が長くなった」。波多野さん自身の経験が正直に語られていることで話題を呼び、10万部を超えるロングセラーに。

 2年前脳梗塞で倒れたものの、リハビリに励み、現在は周囲を驚かせるほどの回復ぶり。「相手を不愉快にさせないために老人はおしゃれするべし」が持論で、お会いした日は、ストライプ入りのピンクのシャツ姿。オーデコロンがほんのり香った。

 2025年には4人に1人が65歳以上の超高齢社会。波多野さんは言う。「社会の蔑視(べっし)や圧力をはね返す行動力や発言力をもつ老人が増えてきた。21世紀は老人の性に対してもっと寛容な社会になることを期待したい」

http://www.yomiuri.co.jp/feature/sfuukei/fe_sf_19991028_01.htm